06 23
2016

 1カ月ほど前、上野の東京都美術館へ話題だった伊藤若冲展を見に行きました。(若冲は鶏を描いた「群鶏図」などが有名な江戸時代の京都の絵師です)
 私の行った日は、たまたま65歳以上の人無料のシルバーデーでした。
 昼の12時ころ行くとものすごい行列になっていて、170分待ちという看板が立っています。
 ネットでシルバーデーは混雑する、ということをチラッと見ていたのに、その日をちゃんと確認しなかった自分の暢気さに呆れてしまいました。
 「今日は混む日ですね」と行列の誘導をしている人に話しかけると、他の日もこれと同じくらい混んでいるということでした。(それでも後で調べると会期中一番混んだ日みたいです)
 想像を絶する3時間待ちの行列に頭がクラクラし、高速バスで時間とお金をかけて来たにもかかわらず見るのを止めようと思いました。しかし、これだけ多くの若冲作品を見れる機会は一生にそれほどない、と思わせるほど今回の展覧会は特別です。とにかく何も考えず待っていればいいんだから、と恐る恐る並ぶことにしました。

 その日は日差しが強い日だったので、美術館でも給水所を作ったり、日傘を貸してくれたりと気を遣ってくれていました。
 並んでいる間は上野公園の木々を眺めたり、一緒に並んでいたシルバーの夫婦の人と、「これだけ盛況で収益は誰に入るんですかね」とたわいもない話をしたりしてなんとか時間をやり過ごしていました。
 シルバーデーだから年齢のいった人が多かったですが、日本のシルバー(というか日本人)は本当に我慢強いですね。外国人が、行列に目を丸くして帰って行ったのを何人か見ました。
 それだけみんな何としても若冲を見たかったということでしょうね。日本全国からこの展覧会を見に来ていたみたいです。


 3時間待ちなんて並ぶ人を少なくするための脅しで、実際ははそれほどかからないんじゃないか、と淡い期待もしましたが、熱い中きっちり3時間かけてやっと入館できました。
 行列は少しずつ進むので、3時間ずっと立っていなければならずホント苦行でした。これでこの先なにかに並ぶことになっても、たいていの行列は平気なはずです。
 あと、その日家に帰ってから、自分がパニック障害だったことを思い出しました。
 並んでいる途中でパニックという言葉が頭をよぎれば緊張したかもしれませんが、最近はパニックのことをふだんの生活で意識しなくなっています。たぶん、パニック障害はそのことについて意識せず、忘れてしまっているようになるのが良いのだと思います。


 展覧会場に入っても息苦しくなるほど人でいっぱいです。
 いいかげんウンザリでしたが、でも、
「やっぱり若冲はすごかった!!」
 特に「釈迦三尊像」3幅と「動植綵絵」30幅がひとつの部屋にずらりと並べられた空間は、絵の迫力と人の熱気が相まってエネルギーにあふれていました。
 若冲の作品は写真や映像で見ても驚きですが、実物は伝わってくるものがやはり違います。
 着想や構図の面白さ、色彩の鮮やかさ、緻密な筆使いが一枚一枚の絵すべてに兼ね備わり、見る人を釘付けにします。こんな作品が33点も並べば、これだけの人が何時間も待つのも頷けます。
 「動植綵絵」はすべて素晴らしいですが、私の好みの作品は「群鶏図」(画面全体に鶏があふれているかんじが好き)と、「雪中錦鶏図」(雪の表現に心ひかれました)です。
 大勢の人にもまれ、ちょこっ、ちょこっとゆっくり進みながら見ていると、角度によって絵の表情のスリリングな変化が目の前に繰り広げられて、こうやって人だかりの中で見るのも案外悪くないかもと思いました。
 若冲は京都のお寺に寄進したこの「動植綵絵」を「10年も」かけて描いた、という言い方がされます。しかし、この濃密な世界を表現するのにどれほど若冲が心血を注いだかを考えれば、「たった10年で」よくこれだけ描き上げたものだ、と私なんかは思ってしまいました。
 これほど鮮やかに動植物を描いた絵は、世界中探してもそんなにないはずです。まさに日本の至宝といえるでしょう。
 

 さらに今回の若冲展では「動植綵絵」以外のたくさんの代表作も展示されました。
 水墨で描かれ静謐な空気感が漂う「隠元豆 玉蜀黍図」や、「乗興舟」「花鳥版画」「玄圃瑤華(げんぽようか)」といった墨色を生かし、それぞれ他にはない趣向をこらした版画も良かったです。
(「百犬図」も見たかったけど展示替えされていて見れなかった)
 
 生命を描き出そうとあらゆる技巧と着想を駆使した若冲の作品、いつまでも見ていたかったですが、入って1時間半も経つとどうしようもなく疲れてしまいました。
 思いもよらず並び始めてから5時間近く、立ちっぱなしで何も食べていません。
 混んでいるということを事前に知っていれば、心の準備も出来てもうちょっと根気よく見られたのに、と思いました。
 ですから有名な作品、石灯籠を点描で描いた「石灯籠図屏風」や、奇抜な「象と鯨図屏風」、小さなマス目によってたくさんの動物・植物が楽しそうに描かれている「樹花鳥獣図屏風」、死の床につくお釈迦さまを大根に、その周りを取り囲む弟子をたくさんの野菜に見立てたユーモラスな「果蔬涅槃図」といった長い時間をかけてじっくり見たかった作品も、サーっと流す感じでしか見れなくてとても残念でした。


 5時過ぎ東京都美術館を出ましたが、驚くことに外ではまだ長い行列が続いていました。あまりの人気に美術館も終了時間を延長して対応していたみたいです。
 今回の若冲展は彼の代表作が集まり、東京のみの開催で期間も1ヶ月と短く、連日のようにテレビで取りあげられたことからこれだけ混雑したということでした。(最終的な入場者数は44万人)
 若冲の人気はケタ違いになっていて、「動植綵絵」は次いつ見れるか分かりませんが、おそらく静かに鑑賞できることは永久に不可能なように思えます。



 外に出て、上野公園の植え込みのヘリに座り、5時間ぶりに息がつけました。水を飲みながら人の行き交う通りを見てボーっとしていると、雀が2羽私のすぐそばにやってきました。人が多い所なので人馴れしているのか、私のすぐ足元で地面をつついています。
 その姿を眺めていると、突然、雀の羽の茶色い模様が浮き上がってくるように見えました。
 さきほどまで若冲の細密な表現を食い入るばかりに見つめていた私の目に、動き回る雀の鮮やかな色あいがはっきり飛び込んできました。
 この雀の模様の異様にも思える素晴らしさに、今まで気づいたことはありません。
 この美しさが、庭にたくさんの鶏を放して毎日観察し、写生し続けた若冲の目がとらえていたものだったのかもしれません。
 「動植綵絵」で描かれたものは今でも人々の身近にある動植物が多いはずです。「動植綵絵」をめったに見れないことを嘆きましたが、それよりも私たちが気にとめないようなありふれた生き物の美を、いつでもこの若冲の目で静かに見つめて、とらえるようにすることが大切なのかもしれません。このことを若冲展とその日一日の苦労、そしてかわいい雀によって教えられた気がしました。







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