(前回からの続き)


 それでは本能はそれほど愚かなものなのか、という話に戻ります。

 前回に言った二つのストレス、食を抑制することによるものと、一般的なもの、これらのストレスが少ない場合には、好きなものを気の向くままに食べたとしても、それほど悪い結果を招かないと思います。

 ここで本能に従った方が良いという例として、フィンランドで行われた調査を紹介します。
 これは循環器疾患の危険性がある人を二つのグループに分けて、一方には定期的な健康診断と投薬治療を行い、もう一方には健康指導を行わずに好きなように生活させるというものでした。
 15年後にこの二つのグループを比較すると、健康指導を受けたグループの方が死亡率が高かったというものです。
 病気を気にしてストレスを感じながら節制するよりも、好きなように生活してストレスを解消した方が長生きできるのでは、という結果を示した有名な調査です。
 また野生動物は健康情報など気にせずに本能のまま食べ、人間が及びもつかない強い生命力を発揮します。
 本来は人間も動物なのだから本能に従って食べれば健康でいられるはずですが、食生活の変化、社会の影響、ストレスなどによって健康に生きるための本能が損なわれ、私たちの食に対する悩みが生じて来ています。

 人間の本能にかなった食というのは、気候、風土に合った伝統食(日本では和食)だと思います。
 伝統食の中にある、私たちの先祖が科学的知識もない中で作り上げてきた知恵には、動物の本能の確かさと同じような驚きを覚えます。しかし、本能に基づいていたはずの日本の食も現代ではおかしな姿に変わってしまいました。


 しかし、その損なわれた本能を回復させるためには、やはり本能に従うしかないと私は思います。
 人間の知識なんかより深い知恵を持つ本能は、自身を健康に戻す術を知っているはずです。
 例えば、異常なストレス食いなども考え方によっては、強いストレスを解消できないために本能が体を壊させることによって、ストレス状態から逃げられるように仕組んでいる、とも考えられるのではないでしょうか。

 あまり良いものと言えない偏った食習慣があったとしても、体が強く欲しているのならそれを抑え込まずに続けたほうが正しいです。(病気があって命にかかわるような時には話は別ですが)
 何か馬鹿げて見える欲求でも体が求めているのなら、そこには私達の考えを超えた必要性があるはずです。


 そういったやっかいな欲求も、自ら禁ずることなく満たしてあげていくと、不思議なことにだんだんやっかいなものでは無くなってきます。そしてコントロール可能などちらでもいいものへと変化していきます。
 それは問題を起こす子どもを叱るのではなく、その子の気持ちを理解し愛情をかけることで子供が落ち着いていくのと同じようなことだと思います。
 そして、この状態になれば、好きなように食べても、あまり極端なことにはならず、健康的な食生活を無理なく送れるようになります。



 本能の好きなようにさせれば、必ず本能自体の健全さが働きます。
 良くない食は体に対してやはり悪いですから、体としては避けたいはずです。でも、偏った食習慣を止めるためには本能が、その食の悪影響を実際に感じないと止めることは出来ません。
 本能自体が働くことで、初めて体への悪影響が理解されて、良くない食生活を止めることが出来ます。
 しかし、私達が食習慣を改善させるために行うのは、いつでも頭脳、知識による本能への命令です。
 このような命令を行ってしまうと、本能の働きは歪められて反発を招き、本能の体への敏感さが発揮されなくなってしまいます。

 制御困難でどうしようもなく見える食習慣も本能の働きの一部だと思います。
 本能、体は無数の要素の関わりの上に成り立っています。悪い食習慣もただ矯正させられる対象としてあるのではなく、何らかの体の必要性があって行われているのではないでしょうか。
 本能はその良くない食べ方の必要性がなくなったとき、体をさらに調和したものにすべく食習慣をあるべき位置に導きます。
 私達に出来るのは好きなように食べてその働きの邪魔をしないことだけです。


 
 しかし、実際にはストレスの問題が大きかったりするので、中年以降の人が完全に好きなように食べるのは少し難しい面もあるかもしれません。(とはいっても、食と本能の関係はここまで説明したようになっていると考えられるので、決して本能を無理に押さえつけるような事は良くないでしょう)
 本当はストレスも少なく、体力もある若いうちに、この本能に従った食べ方を体得するのが一番良いと思います。


 食べ方というのは本当に人それぞれです。
 イチロー選手や体操の内村航平選手などの一流アスリートの偏食、また1日に青汁一杯で何年も健康に生活している女性がいたりする、といったことを考えると、何が正しいとか言えなくなります。
 しかし、なにより食事をして元気になる食べ方が一番ではないか、と私は思います。
 食べて調子がよく、気分が晴れ晴れする食べ方をしていれば基本的に正しい。好きなように食べるというのは体が喜ぶように食べることです。


 
 ある有名な歌手が「おいしいものは体に悪い」と言っているのを聞いた事があります。好きに食べると、どうしても脂肪や糖分の多いものを食べてしまうということなのでしょう。
 しかし、私は「おいしいものは体に良い」と思っています。
 私は自らが菜食なのでこういう考えを持つに至ったとは思わず、一般の人でもストレスなく好きに食べればこういう結論になると思っています。
 面白いのは、ハリウッドスターといったアメリカのセレブにベジタリアン志向な人が多いことです。
 世界中のどんな贅沢な物でも食べられる大金持ちの彼らが、そういった食事をするのは、好きな物を食べ尽くした結果、最終的に私が言ってきたような体の喜ぶ食にたどり着いた、と見るのはあまりにこじつけに過ぎるでしょうか?
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